自動車等完成車メーカー(トヨタ、ホンダ、マツダ、ヤマハ、スズキ)による品質不正

国土交通省は、兼ねてから、ダイハツ工業等の不正事案を踏まえ、型式指定を取得している自動車メーカー等85社に対し、型式指定申請における不正行為の有無等に関する調査・報告を指示していましたが、その結果、2024年5月末までに自動車メーカー計5社から、型式指定申請における不正行為が行われていたとの報告があったことを、6月3日、発表しました。


5月末の時点で不正行為が報告されたのは、トヨタ自動車、本田技研工業、マツダ、ヤマハ発動機、スズキの合計5社です。5社は、自動車の大量生産に必要な型式指定の認証試験で、虚偽データの提出や試験車両の不正加工などを行っていたということです。国交省は5社に対して、型式指定申請で不正のあった車種の出荷停止などを指示したうえで、立ち入り検査を実施し、不正行為の事実関係などの確認を行うとしています。


上記の発表に合わせて、該当の5社は、同日、以下のように発表しました。


トヨタ自動車は、型式指定申請に関する手続きで不正行為があったと発表しました。現行生産車3車種(「カローラフィールダー」、「カローラアクシオ」、「ヤリスクロス」)、過去生産車4車種(「クラウン」、「アイシス」、「シエンタ」、「レクサスRX」)の計7車種で、国が定める基準と異なる方法で試験を行っていました。現行生産車種3車種については同日から出荷と販売を停止しました。過去生産車も含めトヨタは「法規に定められている性能に問題ないことを確認している」ことから、直ちに使用を控える必要はないとしています。


ホンダは、過去に販売した四輪車の騒音試験や原動機車載出力試験で、試験条件の逸脱や実際と異なるデータの記載などの不適切事案があったと発表しました。社内の技術検証や実車試験の結果、いずれの評価項目も法規基準は満たしているといいます。騒音試験では2009年11月~19年9月まで生産した「フィット」など22車種で規定範囲を超えた重量で試験を実施するとともに、試験成績書に規定範囲内の数値を記載していました。試験実施後に設計変更などに伴って重量が変化する可能性があるとして車両重量を法規よりも厳しい条件に設定していました。また、原動機車載出力試験と電動機最高・定格出力試験では、16年6月~22年5月に販売した「フリード」など8車種で試験結果の出力値とトルク値を書き換えていました。試験結果と諸元値に対する差がわずかだった場合は、性能のばらつきの範囲内であると考え、追加解析の工数増加を回避しようとしたといいます。原動機の出力試験では、発電機を作動させた状態で試験すべきところ、別の同一原動機試験で得られた補正値を用いて数値を算出し、これを発電機を作動させた状態と同等の試験結果とみなした不正もありました。


マツダは、国内市場向けの5車種で型式指定申請の不正行為を確認したと発表しました。衝突時の試験では、エアバッグを車載センサーによる自然起爆ではなく、外部装置を用いて時間指定で起爆させていました。不正の概要は、衝突試験での試験車両の不正加工が、アテンザ(生産時期2014年11月~18年4月、2万9547台)、アクセラ(同16年8月~19年2月、4万6067台)、アテンザ/MAZDA6(同18年4月~24年4月、2万2094台)の3車種。再試験の結果、衝突時の保護性能は法規で定められた基準を満たしており、乗り続けても安全性に問題はないといいます。出力試験でのエンジン制御ソフトの書き換えが、ロードスターRF(同18年6月~、1万930台)とMAZDA2(21年6月~、4万2240台)の2車種。いずれも生産を続けており、5月30日から出荷を停止しました。安全性には関連しないため、乗り続けても問題ないといいます。マツダによると、不正の対象は生産実績としては15万878台、販売実績は14万9313台に上るとのことです。また対象車種については顧客から約3500件の注文が入っているといいます。


ヤマハ発動機は、規定と異なる条件で騒音の認証試験を実施していたと発表しました。対象車種は「YZFーR1」で、規定と異なる出力で試験を実施していました。規定通りに社内で再試験を実施した結果、基準に適合しており、すでに出荷済みの車両も使用に支障を生じさせる事案は確認されていないといいます。出荷は停止しました。通常は、グラスウール製吸音材を使用した消音器(マフラー)を通常路上で使用する状態にするコンディショニング(試験準備調整)を行うが、規定と異なる出力でコンディショニングを実施していました。同社によると、コンディショニングの過程で熱によって試験器具が溶損する事態が生じたためだといいます。同車種は2020年8月20日に発売したモデルで、現在までの累計販売台数は1434台。同車種のほか、過去に生産していた「YZFーR3」(2015年4月20日~2017年7月、2018年1月20日~2018年9月)、「TMAX」(2017年4月7日~2019年9月、2020年5月8日~2021年10月)の2車種は、申請書類に試験実施車種以外の車台番号を記載したといいます。いずれの事案も担当者がルールを誤認識していたことで発生しました。「YZFーR1」は規定と異なる条件で騒音の認証試験を実施していました。規定通りに社内で再試験を実施した結果、基準に適合しており、すでに出荷済みの車両も使用に支障を生じさせる事案は確認されていないといいます。また、過去に生産していた「YZFーR3」と「TMAX」の2車種は、申請書類に試験実施車種以外の車台番号を記載していたといいます。


スズキは、調査の結果、不正事案を1件発見したと発表しました。不正が見つかったのは2014年12月から2017年12月まで販売された「アルト」(型式:スズキHBD-HA36V/型式指定番号:17956/通称名:アルト/型式指定年月日:2014年11月12日)。累計販売台数は2万5999台を数える。2014年9月のアルト(貨物仕様・ABSなし)の型式申請の際に提出した「トラックおよびバスの制動装置の試験記録および成績」において、フェード試験の停止距離を実際の試験の数値よりも短く記載していたといいます。社内認証試験においてブレーキの踏力が規定値を大きく下回る弱い力だったことで、停止距離が法規要件に対して余裕がなかったが、試験成績書の提出期限に対して再試験の時間がなく、試験に関与した者がブレーキを規定値近くまで踏み込んだ場合を想定した停止距離に書き換えても問題ないと考え、意図的に書き換えたものとスズキは原因について推測しています。現在は社内認証試験に設計開発部門から独立した組織である法規認証部門が立ち合ったうえで、試験結果と成績書を確認するプロセスとなっており、不正を発生させない仕組みになっているといいます。なお、2024年5月18日に法規認証部門立ち会いのもとで当該試験をやり直した結果、フェード試験の法規要件を十分に満たすことを確認、2014年以降のすべての開発機種の試験結果と成績書を確認し、同様の不正があったのはアルトの貨物仕様のみだったといいます。